金融政策を読み解く――日銀は金利で何を動かし、私たちの生活に何をもたらすのか

金利の引き上げや据え置きといったニュースは頻繁に報じられる一方で、「金融政策とは何か」を正確に理解している人は多くありません。

金融政策は、中央銀行が金利を通じて物価や景気に働きかける、経済運営の中核をなす仕組みです。

本インタビューでは、日本銀行の金融政策を軸に、その基本的な考え方から国際比較、そして私たちの暮らしとの関わりまでを大東文化大学の郡司大志先生に伺いました。

目次

金融政策とは中央銀行が金利を通じて経済と物価に働きかける仕組み

LC Asset Design(以下LC)まずはじめに、そもそも金融政策とはどのようなものなのかについて教えてください。

郡司氏:金融政策とは、中央銀行が行う政策の一つです。中央銀行が金融市場に働きかけることで、総需要と呼ばれる経済全体の需要を変化させ、物価水準や生産量などに影響を与えようとする政策を指します。

具体的な標準的手法としては、金融機関の間で取引される短期金利である「無担保コール翌日物金利」に影響を与える方法があります。

また、最近は行われていませんが、2016年頃からは10年物国債金利といった長期金利に影響を与える政策も取られていました。さらにそれ以前には、日本銀行のバランスシートの負債側であるマネタリーベースをコントロールする方法も用いられていました。

このようにさまざまな目標や手法がありますが、現在取られているのは、無担保コール翌日物金利をコントロールすることで経済に影響を与える政策だと考えられます。

LC:ありがとうございます。ニュースなどでは見え方が変わることも多いと思いますが、金融政策についてよく誤解されている点があれば教えてください。

郡司氏:金融政策は、GDPを引き上げるための政策であるとか、賃金を上昇させるための政策であると誤解されがちです。しかし、金融政策、とりわけ日本銀行の政策は、物価水準に影響を与えることに主眼を置いています。

そのため、他の経済変数がどうであっても、物価水準が中心になる点には注意が必要です。

もっとも、日本銀行が他の変数をまったく無視しているわけではありません。景気にできるだけ悪影響を与えない形で、物価水準を安定させることを目指していると考えられます。

主要中央銀行と比較して見る、日本銀行金融政策の共通点と独自性

LC:FRBやECBなど主要国の中央銀行の金融政策と比較して、日本銀行の政策にはどのような特徴や違いがあるのか、教えていただけますでしょうか。

郡司氏:似ている点としては、FRBやECBと同様に、政治からの独立性が担保されている点が挙げられます。中央銀行制度が独立して金融政策を行えているという点では、日本銀行も他の中央銀行と共通していると言えるでしょう。

また、ECBやFRBが2%の物価水準目標を掲げているのと同様に、日本銀行も2%の物価水準目標を持っています。現在はCPI(消費者物価指数)が2%を超えていますが、その目標があることから、今回の利上げが行われたという背景があります。この点も共通点だと言えます。

一方で、FRBやECBとの違いとしては、日本銀行は依然として低金利の状態にある点が挙げられます。極めて低い金利のもとで利上げを行っているため、金利が高くなったように感じられるかもしれませんが、他国と比較すると、金利水準はまだ低いと考えられます。

LC:他国と比べるとまだまだ金利が低いのですね。

郡司氏:また、現在ECBやFRBは利下げ局面にありますが、日本銀行は利上げ局面にあるという点も大きな違いです。物価水準、つまりインフレが高まってきていることを受け、それを抑えるために利上げを行っている局面にある点は、他の中央銀行制度とは異なる状況だと見られます。

さらに、2013年以降、日本銀行はバランスシートを非常に大きく拡大してきましたが、その縮小を今後どのように進めていくのかという課題を抱えています。この点も、他の中央銀行制度との違いとして挙げられます。極めて大きくなったバランスシートを今後どう対応していくのかが問われているわけです。

もう一つの違いとして、他の中央銀行では取られなかった政策として、ETF(上場投資信託)を購入する政策があります。日本銀行はETFを購入してきましたが、その縮小規模については、日本銀行の公表によると、縮小していくとしても百年単位の時間がかかるとされています。これをどのように縮小していくのかという点も、他の中央銀行制度とは異なる課題だと言えます。

2025年以降の日銀政策で最大の焦点となる「インフレ対応」

LC:2025年以降の日本銀行の政策運営について、現在どのような取り組みが行われており、今後どのような展開が予想されるのかを教えてください。

郡司氏:まず一つ目はインフレ対応です。今年に入ってからもインフレは相当進んでおり、CPIで見て3%程度の水準にあります。日銀のインフレ目標は2%程度ですので、それをかなり上回っています。このインフレをどのように落ち着かせていくのかが課題です。

2025年12月に政策金利は0.75%に引き上げられましたが、それで十分なのかどうかは議論の余地があります。植田総裁の会見を見る限り、当面はこの金利水準で様子を見るようにも読み取れました。このまま据え置かれるのか、来年にかけてさらに引き上げられるのかは分かりませんが、市場では当面据え置かれるとの見方が強く、インフレ対応がどうなるのかが注目されています。

また、長期金利への対応も重要です。インフレに対応するには短期金利を引き上げる必要がありますが、短期金利を上げると長期金利も上昇しやすくなります。長期金利が上がった場合に日銀がどう対応するのかも注目点です。

LC:なるほど、長期金利への影響も含めて考える必要があるのですね。

郡司氏:同様に為替レートへの対応も関心を集めています。2025年12月の利上げを受けて円高に振れると見られていましたが、実際には円安方向に動きました。これは、市場が日銀は当面0.75%の金利を据え置くと見ており、為替への影響が限定的だと受け止めたためかもしれません。為替レートをこのままにしてよいのかという点も、日銀の政策運営で注目されるポイントだと思います。

さらに、景気への影響も重要です。インフレ目標への対応として金利を引き上げる必要はありますが、金利上昇は景気に影響を及ぼします。雇用や賃金、さらにはGDPへの影響も見ていかなければなりません。景気に悪影響を与えるような大幅な利上げは難しいため、その点を意識しながら政策運営が行われると考えられます。

今後、来年以降にかけて金利をどのように引き上げていくのかが重要な注目点になるでしょう。

LC:仮に金利政策が変わった場合、私たち生活者はどのような変化に注意すべきでしょうか。

郡司氏:大きく二つの面があります。

一つは「運用」の面です。例えば長期で運用するのか、短期で運用するのかという選択です。定期預金であれば一年単位で運用するのか、あるいは社債などで中期的に運用するのかといった選択肢があります。

金利が引き上がる局面では、長期での運用は慎重に考えた方がよいかもしれません。金利が上がれば、より高い利回りの商品が出てくる可能性があるからです。一方で、金利がこのままの水準で推移すると考える人は、長期運用を選ぶという判断もあり得ます。自身の金利見通しに応じて、運用の満期を調整する必要があるでしょう。

株式運用についても同様です。株価は配当を割引率で割り引いた価値で決まる側面があり、金利が上がると割引率が高くなるため、株価が下がる可能性があります。金利上昇を想定する場合、株価下落のリスクを考慮する必要があるでしょう。一方、金利が一定で推移すると考える場合には、株式での運用も選択肢になります。

LC:ありがとうございます。もう一つの面についても教えてください。

郡司氏:もう一つは「借り入れ」の面です。金利が上がると、借り入れの返済額が増える可能性があります。すでに変動金利で借り入れている人は、金利上昇によって返済負担が増えることに注意が必要です。場合によっては借り換えを検討する必要が出てくるかもしれません。

今後借り入れを考えている人も、変動金利にするのか固定金利にするのかを選ばなければなりません。今後も金利が上がると考える人は固定金利を選ぶ方が安心かもしれませんし、金利が一定で推移すると考える人は、比較的金利の低い変動金利を選ぶという判断もあり得ます。

運用面でも借り入れ面でも、自身の見通しに基づいて方針を決めることが重要だと思います。

LC:ありがとうございます。生活者側の注意点についてお話しいただきましたが、逆に日銀側が今後の政策運営で特に慎重になるべきリスクにはどのようなものがあるでしょうか。

郡司氏:日銀は物価水準を重視していますので、物価をコントロールするために金利を動かすことはあります。ただし、その一方で景気への影響には非常に注意を払っていると思います。金利を引き上げることで、景気を予想以上に冷やしてしまうリスクがあるからです。

実際、物価高への対応が遅れたと見られることもありますが、その背景にはトランプ関税の影響が日本経済に悪影響を及ぼす可能性があったことや、首相交代のタイミングで政策の先行きが不透明だったことなどがありました。

その後、高市政権下では景気への影響が比較的限定的だと判断できたため、日銀が利上げに踏み切った可能性があります。

LC:景気への影響に十分注意しながら、物価高への対応として政策の舵取りを行っていく必要があるのですね。

郡司氏:その意味で、景気の悪化リスクは日銀にとって大きな課題だと考えられます。

日銀の動きをどう読むか――金融政策を日常生活に活かす視点

LC:金融政策に関する知識は、日常生活の中でどのように活かすことができるのでしょうか。

郡司氏:先ほどもお話ししましたが、大きく分けて「運用面」と「借り入れ面」の二つがポイントになります。

運用面では、金利が引き上がるのか、それとも据え置かれるのかに注目することが重要です。そのためには、日銀関連のニュースを日常的に確認することが役立ちます。

日銀関連のニュースは頻繁に出るわけではありませんが、一般ニュースの中で「金融政策決定会合」に関する報道が出た際は特に注目すべきです。また、日銀の審議員や総裁・副総裁が講演を行った際のニュースも重要です。

例えば、上田総裁が金利引き上げに前向きな発言をしたという報道が出た場合、今後金利が上昇する可能性を意識しておく必要があるでしょう。審議員の講演についても同様で、何らかの動きが示唆された場合は注意が必要です。

LC:借り入れについてはどうでしょうか。

郡司氏:借り入れの面でも、金利がどう変わるのかを意識しなければなりません。金利が引き上げられたり、引き上げが予想されたりすると、長期金利が変動します。長期金利は日銀が直接動かなくても変わる可能性があります。

特に借り入れを行う人は、長期金利の動きに注目しながら日銀の政策を見る必要があります。

植田総裁の発言一つで長期金利が動くこともありますので、政策委員会委員の動向と長期金利の変化を踏まえ、借り入れをするかどうか、あるいは変動金利から固定金利に借り換えるかどうかといった選択を行うことが大切です。

その意味で、日銀関連のニュースに日頃から注意を払うことは、生活に役立つと思います。

LC:ニュース以外に金融政策に関する情報を得るためにおすすめの媒体はありますか。

郡司氏:一般的な新聞やニュースサイトの金融政策関連の記事を見るのが良いと思います。金融市場関連のニュースの中には、金融政策に関する情報が割り込んでくることがよくあります。

最近では、外国の中央銀行の動きや日銀の審議、講演に関するニュースが多く見られますが、特にここ1〜2年は、金融政策決定会合の直前に、その内容を示唆するようなニュースが出ることもありました。

そのため、金融市場関連ニュースの中に金融政策決定会合に関する話題が出てきた場合は、注目する必要があるでしょう。新聞でもニュースサイトでも、金融市場関連のニュースを意識して見ることをおすすめします。

LC:例えばブルームバーグのようなサイトを思い浮かべる人も多いと思いますが、先生としては、具体的にどのようなニュースサイトがおすすめでしょうか。

郡司氏:ブルームバーグは良いと思います。そのほか、新聞社系のニュースサイトでも問題ありませんし、日銀のホームページを見るのも有効です。

日銀のホームページには「最新情報」の欄があり、講演情報が必ず掲載されています。そこをチェックすることで、審議員の最新の発言や情報を得ることができます。

LC:ありがとうございます。金融政策に関する知識がない方も多いと思いますが、知識を身につけるためのおすすめの勉強方法や書籍はありますか。

郡司氏:少し分厚い本になりますが、マンキューの『マンキュー経済学Ⅱ マクロ編(第5版)』(センゲージ・ラーニング)は評価も高く、腰を据えてマクロ経済学を勉強したい方には適しています。

一方で、分厚い本は苦手という方には、新書で金融政策を扱ったものも多く出版されていますので、そうした新書を手に取ってみるのも良いでしょう。例えば、翁邦雄『日本銀行』(筑摩書房)などがいいですね。金融政策に関する新書は種類も多く、おすすめです。

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