子どものSNS利用をどう守るか──親に求められる関与と情報リテラシー教育

SNSの普及により、子どもたちが日常的にオンライン上で交流する機会は大きく増えています。

一方で、裏アカウントや見えにくいコミュニティの存在をはじめ、保護者が把握しにくいリスクも同時に広がっています。

とりわけ、2023年の法改正による面会要求罪などの新設を踏まえると、未成年のSNS利用には従来以上に慎重な関与が求められるでしょう。

本インタビューでは、子どもの安全を守りながら健全な利用を促すために、保護者はどのように向き合うべきかを文教大学の池辺正典先生に伺いました。

目次

SNS利用時に求められる親の役割とは

LC Asset Design(以下LC):お子さんがSNSを利用する際、いわゆる「裏アカウント」や「秘密のグループ」について、親はどこまで踏み込んで見守るべきでしょうか。先生のご見解をお聞かせください。

池辺氏:裏アカウントや秘密のグループの定義は曖昧だと思いますので、まずは、SNSアカウントでのフレンド管理から説明させていただきます.小学生の場合、やはり親によるフレンド管理が必須だと思います。

また、中学生になったとしても、最初のうちは保護者がしっかりフレンドやグループの管理する必要がありますし、子どもよって情報リテラシーの能力には差があるために、各個人やその状況に応じた管理は必要であると思います。

そして、年齢を重ねることで、ある程度自分で判断できるようになれば、最終的には複数のアカウントを利用することもあると思いますが、それはペアレンタルコントロールによる管理が終わった段階で、ある程度の情報リテラシーや情報倫理の能力を身に付けた後に行うことだと思います。

つまり、まずはペアレンタルコントロールのような仕組みを使って情報リテラシーと情報倫理を育んだ上で、その後にこうしたアカウントやグループの利用方法を許可すべきだと思います。そうした理由から、保護者は最初の段階では必ずしっかりと関与して管理する必要があると思います。

LC:SNSを利用していると、親が知らないところでトラブルが起きる可能性があります。そんなときに子どもが相談しやすいような日常の親子関係を作るコツはありますか?

池辺氏:管理を途中から始めると保護者と子どもの関係に無理が生じることが多いので、SNSを使い始める序盤から適切な管理を行うことが大事です。

実際、中学生くらいからSNSを始める子どもは多いですが、その初期段階ではトラブルが起きやすく、使い方に不安を感じても保護者には相談しにくいものです。こうした背景もあって、現在は学校教育の中でもペアレンタルコントロール機能に言及することが増えています。

保護者側からもそのようなツールの話題を子どもに提供し、「ペアレンタルコントロールは管理のツールではなく、保護者と子どもがお互いの安全を守るためのツールだ」という認識を共有した上で、序盤からしっかり使っていくことが大切です。

LC:なるほど。先生のお話を伺い、子どもがSNSを使い始める段階で保護者がしっかり関与することの重要性を改めて認識しました。

また、ペアレンタルコントロールを「管理」ではなく、安全を守るための共同ツールとして捉えることが、親子関係を損なわずに見守りを進める鍵になると新たな気付きを得られました。

法改正を踏まえたSNS利用のリスクと保護者の役割

LC:SNSで知り合った人から個人情報や秘密の写真を聞き出そうとする、悪意のある存在から子どもを守るには何が必要でしょうか。

池辺氏:法的な観点では、2023年に刑法改正があり、面会要求罪や撮影罪といった新たな罪が追加されました。これには年齢要件も定められており、16歳未満を対象に、性的な目的で会う行為や写真の撮影・要求行為が禁止されています。

このような背景を踏まえると、16歳未満の子どもが安全安心にSNSを利用するためには管理を前提としたものでなければなりません。日常的な利用にルールを設定し、管理ツールの活用などを徹底する必要があります。

また、このあたりの年齢層では、「SNS上で知らない大人に会うことは避けるべき」と法律上も読み取れます。このような点は学校で実施されるサイバー防犯教室などでも話題にすることが多いために、子どもたちはSNSにおけるコミュニケーションは一定の理解を持っていることが多いと考えられます。

したがって、保護者もその前提を話題にしても良いと考えます。

LC:個人情報に限らず、最近はSNS関連の副業詐欺も流行しています。子どもが「この人は悪い人ではない」と信じ切ってしまっている場合、保護者はどのように対応すべきでしょうか。

池辺氏:2023年の法改正で問題となったグルーミングの行為は、もともと趣味などを通じて知り合った相手とのコミュニケーションが徐々に変化し、トラブルに発展するケースが多いという点が背景にあります。

このような事例については、小学校や中学校でも周知が進んでいます。つまり、当初のコミュニケーションから目的が変わり、さまざまな被害が起こり得るという前提を理解したうえでSNSを利用することが前提となっているわけです。

したがって保護者もその前提を踏まえた上で、子どもに対してSNSの利用ルール等について積極的に話をする必要があると考えます。

LC:学校でもリスク教育が進む中で、家庭においても「知らない大人とは会わない」といった前提を共有し、日常的に話題として取り上げることが大切なのですね。

さらに、グルーミングや副業詐欺のように信頼関係の形成から始まるトラブルを防ぐためにも、保護者が早い段階から積極的に子どもと対話する姿勢の重要性を改めて理解できました。

SNSいじめ防止に必要な「事例学習」と保護者の早期相談体制

LC:SNS上で誹謗中傷やいじめの被害者、または加害者にならないために、子どもたちが守るべきルールが一つあるとすれば、どういったものになりますでしょうか。

池辺氏:これはルールというより、過去の事例を学ぶことが重要だと考えています。実際、子どもたちのコミュニティは現実世界を含めてもそれほど広いものではありません。

そのため、自分のインターネットにおける行動が社会的にどれほど大きな影響を持ち得るのか、認識しないまま犯罪行為等も含むトラブルに遭遇するケースが多いのです。

ですので、どういった行為に対してどのような罪が問われ、どのような責任を負ったのかという過去の事例を、包み隠さず正確に学習していくことが大切だと考えています。

LC:各行為がどの程度の罪になるのかを含めて、事例学習をしっかり行うことが効果的なのですね。

さらに追加でお伺いしたく思います。仮に事例学習をした後でも、加害者になってしまう人はいると思います。そういった場合、保護者はどのタイミングで学校へ報告すべきなのか、また子どもへどのように関わるべきなのか、その点について先生のご意見を伺いたいです。

池辺氏:現在では、誹謗中傷やいじめの案件について、昔と違ってしっかり対応してくれる組織が増えています。また、学校としても「いじめを認知するところから始めましょう」というスタートラインに立っています。

もし保護者が学校の対応に不十分さを感じた場合には、自治体の受付窓口や匿名相談窓口など様々な相談先が確保されているので、そういったところも含め、早い段階から「自分だけで判断できなければ相談する」という意識付けをしておくことが大切だと思います。

LC:2023年の刑法改正によって未成年を狙った行為が明確に犯罪として位置づけられた今、子どものSNS利用は保護者による管理を前提とする必要性がより一層高まっているのですね。

学校現場でもリスクへの周知が進んでいる一方で、家庭でもその前提を共有し、継続的に対話していくことが欠かせないという点が広く知られればと思います。

子どもの納得を引き出すネット利用ルールの作り方

LC:子どものインターネット利用時間が長すぎると感じたとき、単なる「制限」ではなく、子ども自身が納得して時間を守れるようになるための具体的な方法や進め方があれば教えていただけますか。

池辺氏:これは年齢によって対応が変わってくると思います。

スマホの使い始めの段階では、自分でしっかり時間管理やマネジメントをすることは難しい時期があります。SNSやゲームを使い始めると、一定数の子どもには依存傾向が見られますので、初めの段階ではペアレンタルコントロール等による制限は必須でしょう。

また、子どもの情報リテラシー能力によって対応は変わります。ある程度の時間管理ができる子どもには、徐々に制約を解除していくことも考えられます。さらに、序盤の段階で「なぜ制限を設けるのか」をしっかりと説明することが大切です。

ネット依存やゲーム依存については、今は病院で治療の対象とされる場合もあります。そうした背景も踏まえて、どのタイミングで制限を解除していくのかも含め、子どもとの対話を丁寧に行っていくことが重要だと思います。

LC:ありがとうございます。子どものインターネット利用時間が長くなる要因として、親の影響もあるのではないかと考えています。

例えば、親が頻繁にインターネットを利用していると、子どももその影響を受けて利用時間が長くなるなどです。このような場合、親自身がインターネットを使う時間を減らすべきでしょうか。

池辺氏:これはご家庭の方針によるところもあるため、各家庭でやりやすい形を模索していただければと思います。

ただし、スマートフォンを置いてお互い目を見て対話する時間を一定確保することは大切です。これはネット依存からの脱却の際にもよく言われることですので、そのような時間を一定程度確保することは大事であると思います。

LC:本インタビューを通じて、子どものSNS利用には初期段階からの保護者による関与と、情報リテラシー・情報倫理の育成が欠かせないことが分かりました。また、法改正を踏まえたリスクの理解や事例学習の重要性が高まり、早期相談体制の確保も求められています。さらに、利用時間の管理を含め、親子が対話を重ねながら納得できるルールを築くことが、安全で健全なSNS利用につながるということが分かりました。

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