中高年の孤独とパートナーシップの再構築──支え合いをめぐる「結婚」以外の新しい選択肢

中高年の独身者が増える現代において、「支え合い」のあり方は大きく変化しつつあります。

かつては結婚がその中心的役割を担っていましたが、今は別居婚や事実婚、さらには心理的なつながりだけを重視する柔軟な関係も広がりつつあるのです。

本インタビューでは、中央大学の山田昌弘先生に、中高年が抱える孤独・不安の実態と、これからのパートナーシップや社会保障のあり方について伺いました。

目次

中高年が求める「支え合いのかたち」──結婚だけが答えではない

LC Asset Design(以下LC):まず最初の質問ですが、50代などで離婚を経験された方が再婚や新しいパートナー、あるいはコミュニティを求める理由について教えていただけますか。

山田氏:パートナーを求める理由はさまざまですが、若い人の場合は結婚、それに続く子育てを前提とすることが多い一方で、中高年の場合は必ずしも結婚である必要はありません。

いわゆる届けを出さない事実婚や別居婚でもよいし、「お茶飲み友達」のような関係でもよい、という考え方が広がっています。つまり目的が一つではないということです。

ただ、目的が一つでない以上、相手との「目的のすり合わせ」が必要になります。そこにある種の努力が求められるわけです。

LC:そもそもパートナーとは、どのように定義されるとお考えですか?

山田氏:「お互いに支え合う関係」だと言えます。 一人でいることに寂しさを感じる人がパートナーを求めるのは、経済的・心理的にお互いを支え合いたいという気持ちが根底にあるからです。

経済的な面で言えば、生活費の補助や家事の分担、困ったときに助け合う関係を求める人もいるでしょう。

心理的な面では、日常の出来事を話せる相手や、一緒に趣味を楽しんだり、更には自分を肯定してくれる相手を求めるなど、さまざまなレベルがあります。

いずれにしても、心理的な支え合いを求める気持ちが大きいのだと思います。

LC:それが従来は結婚という形に現れていたのですね。

山田氏:はい、結婚は経済的・心理的支え合いをすべて含め、「共同生活を送ろう」とする契約のようなものです。つまり、住居やお金、家事、遊びに行くことなど、あらゆることを共同で行うという圧力が生じます。

そして日本では、結婚には「別れにくい」という保証が伴います。離婚率は上がっていますが、制度的に一方的に離婚するのは難しく、裁判になれば5年、10年かかることもあります。

つまり日本では、一度結婚すれば「双方が離婚を望まない限り、なかなか別れられない関係」と理解されています。

LC:たしかにそのようなイメージがあります。他の国はどうなのでしょうか?

山田氏:ヨーロッパやアメリカでは、一方的な離婚が可能なため、同棲と結婚の違いが曖昧になってきています。

日本ではまだそのハードルが高いうえ、日常的義務が多く伴います。親戚付き合いや同居、経済的な共有などが代表的です。

また、若い人が結婚を選ぶのは、やはり「子育て」という大きな目的があるからでしょう。子どもを育てていくうえで、法的に結婚していない状態は不安が残るため、結婚という形をとるケースが多いのです。

LC:なるほど。中高年になると、パートナーに求めるものも変わってきそうです。

山田氏:その通りで、中高年のパートナーシップでは、子育ての時期に求められるように全面的に共同生活をする必要はありません。すでに子どもが独立し、今後持つことを想定しない年代では、学費や育児を共同で負担する必要がないため、すべてを共有する意味は薄れます。

そのため、中高年同士の関係では「生活は別々にしつつ、心理的に支え合う関係を築く」という選択も可能です。例えば、別居しながらもお互いを思いやる関係を続けるなど、柔軟なパートナーシップが考えられます。

LC:中高年のパートナー探しでは、「どの程度の共同性を求めるのか」をお互いに話し合い、交渉していくことが重要な課題となりそうですね。

一方で、今回の「パートナー関係」というのは、特定の目標を共有できれば、男女でなくても成り立つのではないかと思いました。研究的には、恋愛感情や男女である必要性というのはあるのでしょうか。

山田氏:すべての共同性を求める関係でなければ、同性の友人間でもパートナー関係は成立します。例えば、「将来亡くなるまで一緒にこの関係を続けよう」という約束も可能です。

ただし、それには法的な保証がないため、数年後に「やはり別れよう」と言われる可能性もあります。

また、恋愛感情がない場合は性的な満足が得られないこともあります。特に異性愛の男性にとっては、性的・身体的な関係を含むパートナーシップを求める傾向が強いでしょう。

したがって、中高年がパートナーを求める背景には、心理的支え合いだけでなく、性的なつながりへの期待も含まれていると考えられます

LC:同性間でも理論上可能だが、実際は異性間で結ばれることが多いのですね。

中高年の孤独を支える“保証”とパートナー関係の新しいかたち

LC:孤独を感じている中高年の独身者に向けて、孤独を解消し安心感を提供するようなサービスやビジネスを考える際に、最も重要視すべき点はどのようなことでしょうか。

山田氏:やはり「保証」が欲しいという点が大きいと思います。つながりの保証をどうするか、ですね。

一緒にいて「いいな」と思ってパートナーになったとしても、結婚しなければ関係がいつでも解消される可能性があります。ですから、もし結婚をしないのであれば、何らかの契約のようなものを事前に交わしておく方がよいでしょう。

例えば「もしこうなった場合はお互いこうする」といった約束を公正証書にして残すケースもあります。特に同性カップルの場合などで実際にそうした契約を作成する方もいます。

LC:パートナー探しについてはどうでしょうか。

山田氏:相手探しにおいても、どの程度信用できる人なのかという点が非常に重要です。

また、中高年の関係の場合、一方的に支える関係は長続きしません。例えば、どちらかが病気になった場合、どちらか一方だけが家事や介護を担うような関係では、強い愛情がない限り続かないですよね。

ですから、そうした事態を想定して事前にどうするかを考えておくことが必要です。

LC:ありがとうございます。ここまでの話を踏まえて、ビジネスという観点から考えると、どのような形があり得るでしょうか。

山田氏:紹介ビジネスのような形が考えられるかもしれませんね。ただ、中高年の場合、若い人のように「結婚を前提にすべてを共有する」という形にはなりにくく、人によって、どこまで共同したいかがまちまちです。

ですから、その希望をマッチングさせるのは非常に難しいのです。親戚付き合いをするのか、子どもがいる場合どうするのか、遺産や介護の問題をどう考えるか――中高年の場合は、若い世代よりもしがらみが多いため、そうした点を事前にすり合わせる必要があります。

そのためには、パートナー関係を築く際の「カウンセリングサービス」のようなものが有効かもしれません。

LC:たしかに、若者の間で普及しているマッチングアプリとは性質が異なりそうですね。

山田氏:はい。最終的には、公正証書の作成など、法的に関係を整理できるサービスまで含めると良いと思います。

いわば「終活支援サービス」に近い形ですね。現在の終活サービスに、パートナー関係の形成を支援する機能を付加する形が現実的かもしれません。

LC:ありがとうございます。実際、50代でパートナー関係を結んでいる方々は、基本的に一人の方と関係を築いているのでしょうか。それとも目的に応じて複数のパートナーを持つ方も多いのでしょうか。

山田氏:原則として一人ですね。もちろん「何をパートナーと呼ぶか」にもよります。私自身、二人三人と関係を持つのは現実的ではないと感じています。 求めるとすれば、やはり一人のパートナーでしょう。

特に経済的にお互いが自立していれば、「二人でどう楽しむか」を考えればいい関係になります。一方で、どちらかが自立していない場合、養う・支えるといった関係になることもあります。その際は、家事やサポートの分担をどうするかをしっかり話し合う必要があります。

性的な部分については、風俗などで満たす人もいますが、それはパートナー関係とは言いません。

LC:経済的というより心理的に支え合う関係、老後を一緒に楽しめるような関係を求める人が多いのですね。

もう一点、孤独を解消するという点で、マッチングアプリやシェアハウスのような既存の仕組みもありますが、中高年層にはあまり浸透していないように思います。なぜだとお考えですか。

山田氏:そうですね。昔は村や町内会といった地域のつながりがあって、そうした場で人と関われる環境がありました。しかし今はそうしたコミュニティが希薄になっています。

新しい形態の関係を試すには勇気が要りますし、将来どうなるかわからないことには中高年の方は手を出しにくい。彼らが求めているのは、一時的な解消ではなく、長期的に寂しさを埋められる「保証」なのです。

例えば、出入りの激しいシェアハウスのような環境では、そうした保証が得にくい。最近では若い人の中でAIに相談するケースも増えていますが、中高年でもそうした傾向が今後は増えるかもしれません。ただ、基本的には「なるべく面倒の少ない関係」を求める傾向があります。

LC:なるほど。たしかに新しいつながりやサービスを利用するのは勇気が必要ですよね。

山田氏:また、シェアハウスやグループホームのような場でも、特に親しい人とパートナーになりたいという希望を持つ方がいます。男性の場合は特に、性的なつながりを求める方が多い。そのため、パートナーのいないシェアハウスでは満たされない人も多いでしょう。

50代、60代になっても、身体的コミュニケーションを伴ったパートナーを求める男性は非常に多いです。もちろん、そうした欲求を風俗で満たすという人もいますが、それに加えて「心身両面でのつながり」を望む人が多いのです。

親と同居する独身者が抱える経済的不安と“自立”の重要性

LC:親と同居している方、特に低収入で独身の方もいらっしゃると思います。そうした方々が、親の死後に経済的なリスクを避けるために、今からできる備えがあれば教えてください。

山田氏:私は新聞の人生相談の回答をすることもあって、同じような質問をよくいただきます。その際にいつも申し上げるのは、「自立できるうちに自立しておくことが大切」ということです。

まずは経済的な自立ですね。特に男性の場合、経済的に自立していないとパートナーが寄ってこないんです。はっきり言えば、パートナーも友人も、ある程度の経済力がないと関係を築きにくい。

LC:まずは経済的に自立することが第一、ということですね。

山田氏:はい。そのうえで、親や実家以外にも友人や知人といった人間関係、つまりネットワークを広げておくことが重要です。行政も、そうした人たちのネットワークづくりを支援する必要があると思います。

さきほども触れましたが、経済的に余裕のない男性というのは、社会の中で排除されやすいんです。ですから、そこをどう支えるかが今後の大きな課題ですね。

孤独死を防ぐ鍵は“つながり”――中高年男性が抱えるプライドと孤立の壁

LC:50代の独身者の中には、孤独死への不安を感じている方も多いと思います。そうした不安を和らげるために、個人・地域・行政ができる最も効果的な対策があれば教えてください。

山田氏:やはり何らかの形で「家族以外のつながり」を作っていくことが必要だと思います。趣味の活動でも構いませんし、例えば私は特にペットを通じたつながりに関心があるのですが、犬を連れて散歩していると、自然と立ち話をするような仲間ができますよね。

それから、地域を超えたつながりも重要です。私は現在、東京都の社会福祉審議会の委員を務めていますが、そこでも孤立・孤独対策が議論されています。

LC:地域ごとに居場所を作りましょう、というような取り組みもありますね。

山田氏:そうですね。ただ、家から外に出てこなければ意味がないんです。特にお金のない男性は、外に出ることを恥ずかしいと感じて出てこない。そういう人たちをどう引っ張り出すか、行政でもその点が課題として議論されています。

さらに、私が注目しているのは「ネット上でのつながり」です。地域が離れていても、自分と気の合う仲間とオンラインでつながることができるようになりました。体が動かなくても交流できるというのは、とても重要なことです。

今後はそうしたネットでのつながりがますます大切になるでしょう。

LC:先ほど「男性はあまり外に出てこない」というお話がありましたが、確かに街中でも50代の集団というと女性のイメージがあります。孤独死も男性の方が深刻なのではと思うのですが、そこに男女差はあるのでしょうか。

山田氏:まず、男性には「男としてのプライド」があります。例えば「男は稼がなければならない」という考え方や、「低く評価されたくない」という意識が強い。そのため、男性同士のつながりは作りにくいのです。

特にお金のない男性は、自分が認められないとバカにされるのではないかと感じ、外に出づらくなる。女性同士の場合は、年齢や収入の差があっても気が合えば仲良くなれますし、上下関係もあまりありません。コミュニケーション能力も高く、お互いを気遣い合う関係を作ることができます。これが男女の大きな違いです。

LC:やはり男女間で考え方が違うのですね。

山田氏:はい、現在の中高年では大きく違います。男性に「プライドを捨てろ」と言えればいいのですが、それがなかなか難しいのも中高年男性の特徴です。収入の少ない男性、いわゆるパラサイトシングルも含めて、家でテレビを見て過ごす人が多いですね。おそらく20年後には、収入が高くない独身男性は、テレビではなくネットを見て、AIと会話しているような時代になるかもしれません。

良いか悪いかは別として、AIが孤独な男性たちの話し相手になり、彼らの存在を社会に伝えて外の人々とつなぐようなシステムがあればいいのではないかと思います。

家族から個人へ──非正規・独身者を支える新たな社会保障の形

LC:単身者が安心して暮らせる社会を作るためには、家族を前提とした年金や住宅などの公的な仕組みを、どのように変えていくべきでしょうか。先生のご見解をお聞かせください。

山田氏:現在の日本の福祉は基本的に家族単位で設計されています。

例えば、私が以前から指摘している「パラサイトシングル」のように、30代・40代・50代でも無職で親と同居している場合、親が元気で経済的に余裕があれば、社会保障の対象にはなりません。

LC:たしかに、対象となる基準が「本人の困窮」ではなく「家族の資力」に置かれているケースは多いですよね。そのため、実際には支援が必要な人でも、公的制度の枠組みでは「困っている人」として扱われない状況が生まれてしまいます。

山田氏:こうした現状を踏まえると、今後は「家族」ではなく「個人」に焦点を当てた仕組みづくりが求められます。引きこもりなどの問題が長く放置されてきた背景にも、親が事実上の社会保障を担ってきた構造がありました。しかし本来、社会保障は個人単位で提供されるべきものであり、独身者・既婚者・離婚経験者といった属性に関係なく、誰もが必要なサービスを公平に受けられる体制が必要です。

例えば、50代で一人暮らしをしており仕事がない場合、適切な社会保障がなければ生活はすぐに困難になります。それにもかかわらず、同じ無収入独身でも家族と同居しているだけで支援の対象外となる制度が今も多く存在しています。こうした制度の偏りを是正し、個人に着目した支援へと転換していくことが今後の重要な課題になります。

LC:実際、家族を作らずに単身で生きる人も増えてきていますよね。

山田氏:はい、現在40歳以下の世代では「4人に1人が一生独身」「4人に1人が離婚経験者」です。つまり、結婚して離婚せずに子どもを持つ家庭は全体の4割ほどしか実現できていません。

それにもかかわらず、社会制度の多くは依然として「結婚して子どもを持って離婚しない」ことを前提に設計されており、その他の人々は例外扱いとなってしまっているのです。このような制度設計を、現実に即した形に変えていくことが求められています。

LC:社会保障はさまざまありますが、その中でも「まず最初に手を付けるべき分野」はどこだとお考えでしょうか。

山田氏:まず取り組むべきは「雇用」と「社会保障」の関係です。日本では正社員と非正規社員の格差が非常に大きく、非正規で一人暮らしをしている人にはほとんど保障がありません。正社員なら失業保険がありますが、アルバイトやパートでは対象外です。常にリスクにさらされる状態で、フリーランスならなおさら厳しい。

したがって、最初に着手すべきは「働き方にかかわらず社会保障を受けられる制度の整備」です。健康保険や年金、雇用保険といった基本的な制度を、雇用形態に中立的に適用できる仕組みをつくる必要があります。

例えば、正社員であれば厚生年金によって老後の不安が軽減されますが、非正規やフリーランスの人にはその保障がなく、高齢で働けなくなると生活が立ち行かなくなります。同じように働いていても、正規・非正規の違いで医療費や給付内容に大きな差があるのは不公平です。

LC:たしかに、改めて考えると格差が大きいですね。正社員になりたくてもなれない人も多いと思うので、このあたりの需要はとても高そうです。山田氏:私は正規雇用として長く勤めてきたため、医療費も安く済み、年金の積立もあります。しかし同じ大学の教員でも、非常勤の方は自分で保険料を払わなければならず、給付を十分に受けられない。こうした格差をなくしていくことが、最初の一歩だと考えます。

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